いつしかこの地に馴染んでしまって ここ暫らくは旅にさえ出てない
横を見ればあいつが居て、年中退屈はしなかった
からかっても、意地悪くしても結局離れないお人好し
真っ直ぐでどっか抜けてて、たまには悪戯をして俺を驚かす
いったん闇に染ってそれなりの代償はあった
アイツを守るか、はたまた手放すか
どっちにしたってお前を泣かせる気はさらさら無い
なのに、いっつも傷つくのは自分でなくアイツ
狂うほど考えては誤魔化して、時に壊れるくらい奪ってやった
結局、包むどころか泣かせてばかりだ
一生手放したくないのに―――
「うわぁぁぁ〜」
目の前に振り下ろされた剣を間一髪で避けつつ、声の主は態勢を取り直そうとする。
茶色い髪の束も幾つか中を舞うが、そんなので動じてる暇も無い。だって、生きるか死ぬか瀬戸際なのだから。
ここぞと思って、彼女は魔力を体の中で練りつつ次々と詠唱をするけれど敵の人数が多すぎて間に合わない。
地面を踏みしめて、有りったけの声でダイアキュートとかリバイアの呪文を唱えても気休めにしかならないなんて―――。
「アイスストーム!」
「よっくも俺達の魔力を奪いやがったな。お陰でろくな目にあわねぇんだー!」
紙一重で交わした剣士もどきは叫び、尚も飛び掛ろうとする。
「そんな事ボクに言わないでよっ! したのはシェゾなんだからぁぁぁ〜〜〜!」
(どうして一気に盗賊さんが襲いかかって来るんだよ)
彼女も負けじと声を張り上げて再び詠唱をする。
魔導師の卵、アルル・ナジャは今日もドタバタに巻き込まれてた。
いきなし拳は飛んでくるわ、剣は振り回されるわでたまったもんじゃない。何気ない昼下がりは突如戦場と化し、
覚えも無い恨みを投げ付けられるなんて予想出来なかった。
あの人達が言うには、シェゾに昔魔力をぜーんぶ吸い取っちゃった人ばっかしみたい。
『魔法が使えなかったらただの人』そう思うのは仕方無いかも。今まで魔法一筋だったから腕力に自信無いのも、
盗賊一味から外された理由は分かるけど―――。
やっぱし無職になった事をボクに当たられても困るよ〜〜〜。
短剣が頬をかすめた途端、一瞬だけ驚いて止まってしまった。そして、冷たいそれは呆気無く細い首筋に当てられる。
嫌な冷汗が背筋を伝うのが分かる。
「さてと。手始めに居場所を吐いてもらおうか」
「ボク、あの人の居場所なんて解らないもん♪」
えへvと誤魔化しの笑みを浮かべてみた。
「お遊びもいい加減にっ―――」
「オイ、張本人の俺を忘れるな」
背後からの声に『元魔導師』は振り返った。その瞬間彼女は逃げる。
「ん? お前はシェゾ・ウィグィィ……。ここで会った百年目。覚悟っ!」
「あいにく、こっちはお前呼ばわりされて喜ぶ程間抜けじゃねぇんだ。アルル、危ないから空間移転で逃げろ。
説明は後回しだ。解ったな」
「うん」
スッっと気配が消えたのを確認してシェゾは冷ややかな眼差しのまま、一気に叫ぶ。
「アレイアードスペシャル!!!」
「そんな馬鹿なぁぁぁぁ……」
* * * * * * *
一瞬にして辺りは荒地となり、人々は気絶して横たえてた。
「ったく、手加減なんていつ覚えたんだ俺は」
昔ならとうに容赦なく消してたのにな。
(最近ずっとこんな調子だ)
「アルル、そこで何やってる」
振り返りもせず、彼はその場で言い放った。
一見誰も居ないで声が木霊するだけのようなんだけれど。吹っ飛んでない木の影からひょっこりと出てきたアルル。
「あれ? やっぱし解っちゃった?!」
「あのなぁ……。何年闇の魔導師やってると思ってる」
「うーんと、365年」
「適当に答えるな」
さっきの緊張した顔は消え、彼の眉間には青筋が浮き出てるものの落ち着いた様子。
今回の集団は元・魔導師と魔法使いでまだマシだった。腕力がさほど無かったからな。
もし、ルルーのような腕を持つ奴とか接近戦が得意な集団が来てたらアイツは―――。
「ただでは済まなかったってワケか」
「ほえ? 何か言った???」
「何でも無い」
「変なのー」
変で済まされるならこっちも苦労しないんだが(苦笑)
先月なんか、アルルは傷だらけになって帰ってきたのさえある。多分、今日と同じような目に遭ったんだろうな。
あの時は少人数だったらしいが。
つまり、接近戦が得意な集団に追い込まれてアルルは絶望の淵に立たさされ『とどめをさされる寸前』
の恐怖心がスイッチになって……。魔力を暴発させちまった。
怪我は己で作ったものだったなんて言える筈がない。心配させない為にと。
相手の安全なんて目もくれずに、自分だけバリアを張っておいて後は暴発させりゃ自分は助かる。
やっぱしお人よしなのか。
「どうしたの? シェゾ、思いっきり悩んじゃって」
「誰かが年中魔法に失敗するからな〜」
「ひっどーい! どうせ、ボクは半人前の魔導師ですよーだっ!!!」
ポカポカと彼を叩くが、何故か反撃してこないのに気が付いて手を止めてしまった。
(ホントにどうしたんだろ。君、やっぱし変だよ)
こっちの気も知らないで、そうお前は呑気なんだ―――。
「あっ」
不意に細くて白い腕を掴まれ次に引き寄せられる。
アルルは顔を上げ、俯いた彼の表情が映った。
「泣きそうな顔してる」
「少しは危機感持て。こっちの心臓は1個しかないんだ。身が持たねぇ」
不覚にも涙が落ちる。笑ってやったつもりなのにどうしてだ?」
「あのねえー」
「ったく、無様ったらないな」
ふわりと、見かねたアルルが抱きついた。
「ボクって頼りないのかなぁ、確かにまだ見習いだけどいつかは一人前になって君に追いつくつもりなのに。
そんなに守らなくてもいいんだよ、ボクの事。心配してたらきり無いよ……」
責任を感じてるのか、彼女は真っ直ぐ見上げた。
「まだ16歳なんだよ、まだまだこれからなんだし努力次第ですぐにコントロール出来るよ♪」
濁りの無い澄んだその眼差しでシェゾの頬に触れる。
安心したのか黒服の男は自分からも強く抱きしめた後、深呼吸をして笑みを浮かべてた。
顔を広い胸にうずめられた彼女には見えなかったけどね(笑)
(もう大丈夫だよね。やっぱし君って……)
「さてと。実践と流れてみるか」
「ほえ?」
呆気無く唇を塞がれた。
次に、低い声で空間転移の呪文が2人をさらう。
突き飛ばそうとするにも心底嫌じゃなくて叶わない。
「ここって、君の家じゃ……。しかも寝室だよ?」
「不服か?」
「そうじゃなくて、実践だからてっきり戦うのに丁度いい野原とか……」
解ってねぇな。まあ、解れって言う方が無理か。
「こうすりゃいいんだ」
『どさり』とベッドに押し倒してみる。
アルルもバタバタと全身を使いまくって彼を避けようとするけど、力の差が有りすぎて無茶だった。
逃げにくいように俺の全体重をかけて押さえ込んでるし、まず無理だろうな〜。
さあどうする。そう言いたげに、余裕しゃくしゃくの意地悪っぽい笑みを浮かべて顔を近づけて―――。
「部屋と家を壊さずに何とかしたら合格だ」
(あ、口はまだ塞がれてないから……)
「えいっ!」
「うぐっ……」
鈍い音と共に、うめき声が響いた。とっさに彼女は逃げて、ドアの前で言い訳する。
「しぇ、シェゾが悪いんだよっ!」
「だからって、台所のフライパンを召喚して真上から落とすかっ!!!」
「だって、変な事しようとするんだもんっ!」
怒った顔が無性に面白くて、本気にアイツは怒ってても怖くない。
「まあいい、褒美をやるか。約束は約束だ、合格祝いに……な」
おろおろする様子を映しながら、すっぽりと腕に包んでみた。膨れた頬でもつついて遊ぶか。
待てよ、いっそこのまま―――。
「あっ……」
(ボク、脱がされてる……)
「拒んでみろよ」
そのまま手早く服を辺りにまき散らして首筋に噛み付く。
「いやっ」
「動きが急に鈍くなったな」
「い、意地悪」
軽々と目の前の体を持ち上げ、俺はそのまま寝台に持ち込んでから再び覆いかぶさってやった。
先週からついさっきまで、ずっと悩んでたのが馬鹿馬鹿しくなってくるぞ……。
苦笑してみると、コイツが笑う。こっちもつられて微笑した。
「シェゾって優しくなったかもしれないけど、一緒に心配症にまでなっちゃったんだね」
「ほっとけ」
首にアルルの腕が回されて、不意に口付けられてた。
目を開いて驚くと、また笑いやがってる。少しは危機感持ちやがれぇ〜〜〜!
「煽ってるのか?」
「さーね。ボク知〜らないっ」
「お前なぁ……。余裕有り過ぎだから、切羽詰らせてやる」
「つ、つまり―――」
じりじりと痛い視線に身をよじった。
「ねだるまで、焦らしまくってやる。ついでに、それを気が済むまで俺がする」
「変態魔導師〜〜〜っ!」
「あいにく、年中そう呼ばれたから慣れたんだ」
ビクッ。
「ドコ触って……っ」
「まだ腕だ。何なら手をつけて欲しい場所、教えろ」
「そんなぁ〜〜〜!!!」
(腕、触られただけなのに顔が熱いよ。ボクも変だって。逃げたいはずなのに動けないなよ〜〜〜!/泣)
その後アルル・ナジャは、シェゾ・ウィグィィの暴走を止められなかったのは想像するまでも有りませんでしたとさ。
やがて『まだ眠ってるかもしれない』無限の魔力をも自在に操れるだろう。
一人前になるのが長年の夢で、他にも叶えたいものが有るって聞いた。
お前なら可能なはず。それを忘れてた俺ってどうかしてたな。少しずつ、強くなって成長するのか……。
そして俺は心配性になって、尻に敷かれるのが運命なのか?
結局、互いに振り回されてるって状態か。それも一挙、肝心な時にはこっちが優位に立てるならそれでいい。
エベレストより高いプライドが、いつの間にかそう叫んでた。
今はひたすら泣かせたいから『色んな意味』で泣かせてやるよ。
表情豊かな顔を見るのも、否定しながら心底期待して喜んでる姿を焼き付けてやるから。
お前は俺のものだ。俺だけがこうしていいんだ。
そして、俺はお前のもの。俺にフライパンをぶつけてていいのはアルルだけだ(爆笑)
後書き。
河野誠: こんにちは、河野誠(和泉諒)です。
えっと、なるべくラブラブにしたつもりですが如何でしょうか?(大汗)
アルル: 戦闘シーン、どうして書いちゃったの?
シェゾ: 単なる思い付きだろうな。きっと。
和泉諒: ピンポ〜ン! お見事、正解者には商品として温泉旅行、又は粗品をこの場で贈呈……。
シェゾ: そのノリを止めやがれっ!(アレイアードで吹き飛ばす)
アルル: あーあ、壁に穴が開いちゃったじゃないかぁ〜。誰が直すの?
河野誠: 恐らくきっと、私がセメントで―――は嫌だから、シェゾさん直しちゃって下さいませ。
この通り、残して逝った旅館の無料チケットに粗品をつけますから(オイ)
シェゾ: ほれ(魔法で直した)
アルル: あのねぇ、本題ずれてるんじゃない? 思いっきり。
河野誠: 話題は360度変わりまして―――。
シェゾ: 結局同じじゃねぇかっ!!!(吹っ飛ばす)
アルル: あーあ。このままじゃ対談にならないよ(汗)
シェゾ: 俺達で閉めるか。
和&河: この度はキリ番のリクエスト、有難うございました♪ 少しでもお気に召していただけると幸いです。
ア&シ: 結局最後までこーゆーオチかぁーっ!!!
和&河: ではでは、この辺にて……(改めて飛ばされる)
*朱桜より・・・*
和泉さんのHPでのキリバンHIT記念に頂きましたv
ラブラブシェアルをリクエストしてのこの作品。本当に有難う御座いました♪