わくぷよダンジョン混乱記?!





「あら。あんたもここまで来てたの?」
「ルルー?」
 突然声を掛けられ振り返ってみれば、そこには見慣れた水晶色の髪をなびかせた美女がいた。
「あれ? ルルー独り? ミノタウロスは?」
 いつも一緒にいる筈のお供の姿が見えなくて、アルルは駆け寄ってきたルルーに首を傾けた。
「とっくにリタイアしたわよ。全く向こう見ずなヤツなんだから ……。ま。あいつがいなくても、こんなとこ私一人で十分だけどね ……」
大きく胸を逸らして強がってはいるが、内心では彼を心配している事をアルルはちゃんと知っている。
アルルの笑みに何を感じたのか、ルルーがかっと頬を染めた。
「な ……、何笑ってんのよ?! ── そんなことより、あんたこそあの黄色いのはどうしたのよ?」
「ああ ……、かーくん? 爆水飲んでHPが1になったかと思ったら、その後すぐワナにかかってリタイアしちゃったよ ……」
 かーくんらしいというか、何と言うか ……。
 思わず遠い目になるアルルに、ルルーは苦笑を返した。
「お互い、苦労するわね」
「あははは ……」

 ここは、わくぷよダンジョン18階。
 ちょうど19階へと続く階段を上りかけたところでアルルは声を掛けられたのだ。
 『すんごい魔法のアイテム』とやらを求めて、アルルはこのテーマパークにやってきていた。ルルーやシェゾも偶然ここに来ている事を知ってはいたが、こうしてダンジョンの中で鉢合わせるのは初めての事だ。

「まあ、あんたみたいな頼りないのがここまで来れた事は誉めてあげるわ。── でも。『すんごい魔法のアイテム』は私のものよ。あんたには渡さないからね」
「あ。それは、ボクのセリフだよぅ」
 そんなやりとりの間にも、二人は絶妙なコンビネーションで近付く敵を片っ端から片付けていく。二人が目指すは『すんごい魔法のアイテム』が眠るダンジョン最上階 ──。

「あら、こんな所に薬草が」
「あ、ルルー。独り占めするなんてずるいーっ」
「こうゆうものは、早い者勝ちなのよ」
 ダンジョン内には色々なアイテムも落ちている。それこそ、薬草から魔導書まで様々なアイテムがである。長いダンジョンを進んでいかねばならないこの状況で、それらのアイテムは非常に重宝する。二人は、それらアイテムも競うようにして集めていた。
「いいもんね。── あ。魔導書めっけ ……」
「それも、私のモノよ」
 廊下の先に落ちている魔導書目掛けて二人は同時に駆け寄った。
「ルルーには魔導書は関係ないじゃない」
「何言ってんのよ。奥義書かもしんないでしょ?」
 手にした魔導書を二人で奪い合う。
 ── が、しょせん力はルルーの方が上だ。
 程なくして、魔導書はルルーの手の中に収まった。

「さて。何の奥義書かしら ……」
 すっかり自分用の奥義書であると決めつけ、ルルーは上機嫌で本をめくろうとする。
 ── が。
「う …… っっ。ひ、開かない …… っっっ?!」
「えぇー?? 何で?」
 力ずくでページをめくろうとするが、本は一枚とも開こうとはしなかった。
「魔導か何かでロックが掛けられてるのよ。ちょっと、アルル! あんた一応、魔導師でしょ? どーにかなんないの?」
「へ?」
 いきなり怒りの矛先が自分に向けられて、アルルは一瞬身を引いた。
「そ …… そんな事言われても ……」
 おずおずと魔導書をルルーから受け取る。
 見たところ何の変哲もない、どこにでもありそうな普通の魔導書である。
 赤褐色の皮表紙には金糸で枠を縁取られているが、タイトルらしき文字は見当たらない。
 表紙に手をかざすと、仄かな光が浮かび上がり、成る程確かに何らかの魔導が施されているようである。
 でも ──。
「一体、何の魔導が施されているのかまでは、ボクには解んないよ」
 試しに、簡単なアンロックの呪文を唱えてみるが、やはり本は何の反応も示さなかった。
「何よ。本当に役に立たない子ね」
 自分の事はどこかの棚に上げ、ルルーは大袈裟な程大きなため息をついてみせた。
「うぅ ……」
 アルルは返す言葉もなく ……(多分、返した所で倍になって返ってくるのが関の山なのだが)魔導書へと視線を落とした。
「でも。ホント、何の魔導書なのかな ……。今までこんな事なかったのに」
「何、ぶつくさ言ってんのよ。それだけ、高級な魔導なり、奥義なりが書いてあるに決まってるでしょ」
「でも ……」
 アルルには、この魔導書に施された魔導に残る微かな波動に何だか見覚えがあるような気がしてならない。
 でも、それが誰であるのかまでは思い出せないのだが ──。
「貸しなさい。こうなったら、力ずくでも ──」
「それは、お前たちの手におえるシロモノじゃあ、ないぜ」
「!! ── シェゾ?!」
 二人の背後から突然、声が掛けられた。
 壁に背を預ける形で、腕組みをしたシェゾがこちらを睨みつけている。
「それを、大人しくこっちに渡しな」
「何よ。渡せと言われて、はいそうですかって、そう簡単に渡すとでも思っているの?」
「それは元々、俺のモノだ」
 壁から離れたシェゾが不穏な空気を纏って二人に近付いてくる。
 うむを言わせぬ迫力に、思わずアルルは一歩後退さった。
「そんな証拠が一体どこに、あるのかしら?」
 シェゾの凄みが効いた視線の前に少々気圧されながら、それでも強気な口調で、ルルーが切り返す。二人の間に火花が散った。
「それは、俺にしか解除出来ない。── さあ。俺がまだこうして温和に頼んでいる内に、さっさとそれを渡すんだ」
「おんわぁ ──? あんた、言葉の勉強が足りないんじゃない? 第一、それがヒトにモノを頼む態度なの?!」
 完全に頭に血が昇ったルルーが戦闘態勢をとった。
「ふん。やろうってのか?」
 シェゾも左手に持った闇の剣を目前に掲げてみせる。
 ただならぬ雰囲気にアルルがあせって、ルルーの裾を引っ張った。
「ねぇ ……。ルルーぅ。これ、返してあげた方がいいんじゃない? だって、シェゾのなんでしょ?」
「何言ってんのよ? すんごい貴重な魔導が書かれているかもしれないのよ? それを何であんなヤツに独り占めさせなきゃなんない訳?」
 そうして、ちらりとシェゾを睨みつけながら。
「第一、どうせ口からの出任せに決まってんのよ。あんたこそ騙されてんじゃないわよ」
 ぴしゃりと言い放った。
「でもぉ ……」
 微かに魔導書から感じるこの波動はシェゾのモノに似ている気がする ……。
「それともあんたは、この魔導書に何が書かれているのか気にならない訳?」
「そ、それは ……」
 確かに、これだけ厳重にロックされた魔導書だ。どんなすごい魔導が書かれているのか、気になるところだが。
 どちみちこのままじゃ、この魔導書を読む事は出来ないのである。
「何をこそこそと話してやがる?」
 イライラとした様子で、シェゾがはき捨てた。
「ふん。相変わらず肝の小さい男ね。あんたには、関係のない、女同士のは・な・し・よ」
 ルルーのおちょくったような言葉で、シェゾの額に青筋が浮いた。
「貴様、俺をおちょくってんのか?! ったく、気に入らねぇ女だぜ。…… こうなったら、力ずくでも取り返す!」
「それは、こっちのセリフだわ!!」
「わ〜っっ。ちょっと、二人とも?!」
 辺りは、一気に戦場のような殺気で包まれてしまった。あまりの闘気に周りの雑魚キャラが近づけない程である。
 しばらくお互いの出方を待っていた二人だが、やがて、ルルーの方が先手をかけた。
「あんたと、いつまでも遊んでられないのよ。風神脚!」
「そのまま、そのセリフを返すぜ。サンダーストーム」
 お互いの攻撃を紙一重でかわしながら、次々と新たな攻撃が放たれていく。
二人のすさまじい攻撃に周りの壁が破壊され始めた。
「ちょ、ちょっとぉ。ねぇ、二人とも ……」
 慌てて二人に割って入ろうとしたアルルであるが。
「きゃぁ〜っ」
 結局とばっちりを受けて、吹き飛ばされてしまった。同時に、手にしていた魔導書が床に飛ばされてしまう。
飛ばされた先の壁に激突する事を恐れて、身を縮込ませたアルルだったが、身体に受けた衝撃は以外にも軽く済んだ。誰かに受け止められたようだ。
「一体何をやっているんだ? お前たち ……。ちっとも上に上がってこないと思ったら」
「サタン?!」
 声の主は、サタンだった。
 戦闘を繰り広げていた二人も、唖然としたように突然現れた魔王に釘付けになっている。
サタンは、ようやく静かになった廃墟を呆れ顔で見渡し、支えていたアルルをキチンと立たせる。そうして、傍に落ちている魔導書を拾い上げた。
「ん …… 何だ? これは ……」
「あ ……。それは」
 シェゾが飛び出すより早く、サタンはそれを事も無げに開いた。
「! ── ロックが掛かっていたはずなのに ……」
「そんなもの。私には何の枷にもならんよ」
「それには、一体どんなすごい魔導が書いてあるんですの?」
 固まっているシェゾを放って、ルルーはサタンの元へ駆け寄った。
 が。返ってきた答えは意外なものだった。
「── …… 二人とも …… これは、すんごい魔導書でも何でもないぞ ……」
「え?」
 なおも本から目を逸らそうとはせず、サタンは続ける。
「── …… うむ。 …… これは …… しかし …… ほぅ?」
「………………」
 固まっていたシェゾの身体から次第にオーラがほとばしり始めた。


それ以上、俺の日記を読むんじゃね〜っっ!!(アレイアード・スペシャル)
「どぅわ〜っ??」
 不意打ちを喰らって、サタンは成す術もなく、天空高く飛ばされてしまった。
「サ、サタン様ぁ〜っっ」
 星になってしまったサタンを追いかけるように、ルルーが駆け出していく。
 あとには、アルルとシェゾだけが取り残されてしまった。
 シェゾが無言のまま床に落ちた日記を拾い上げ、埃を払う。気まずい雰囲気が辺りに漂った。
「…… 日記 …… ? …… シェゾの?」
「悪いか?!」
「いや ……。別に悪くはない、けど ……」
 悪くはないんだけど、ちょっと意外、かも ……。とは流石にこの空気では言えそうにない。
 気まずさからか、シェゾの顔は紅潮している。
「それ ……。一体何が書いてあるの?」
「!! ── …… お前には関係ねえだろ ///」
 ますます赤面して、シェゾはそっぽを向いてしまった。
「…………」
「…………」
 なんとも言えない沈黙が流れる。
「ちっ。くだらねぇ事で魔力を使いすぎたぜ。── 一旦出る。…… じゃあな」
 何故だか説明的セリフを残し、シェゾは脱出の巻物を使ってそそくさとダンジョンから姿を消してしまった。
「…………」


 ヒトの日記ほど気になるモノはこの世に存在しないかも知れない ── …… ?!

 独り残されたアルルは、どこか不完全燃焼な気持ちを抱えたまま、ダンジョン攻略を再開するのであった……。


・・・END・・・



*あとがき*

気が付けば、またしてもカップリングなしのコメディーもの(汗)
でも。読み様によっては十分、シェアルよね?(←なんてゴーインな……)
しかし……。シェゾさんの日記……。一体何が書いてあったんでしょう?
内容の方は……あなたのご想像にお任せします(くすくす……)。


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